2022年7月29日金曜日

真夏のきつねうどん

夏のエアコン生活時間が長いと、冬以上に温かい食べ物がほしくなります。中でもお昼休みに行く近所の食堂のきつねうどんは秀逸です。注文してから十分あまりで、三角巾を頭にきれいに巻いた大阪のおばちゃんが運んできてくれるそのきつねうどんは、器からうっすら湯気を立てています。おばちゃんの「お待ちどうさま!」の元気な響きを聞いたあと、きつねうどんから立ち上がる湯気に顔を入れ、カツオだしの香りを楽しみます。テーブルの端にある瓢箪の形をした七味入れの先の栓を抜き、サッときつねの上にかける。それを箸で広げてまずはだしから。口に入ると、温かいだしの次にきつねの甘みと七味の少しの辛味がついてくる。それが混ざり合うと甘味が増して、最後はなんとも言えない柔らかくやさしい味が口の中を覆います。それからコシのない大阪うどんをすする。その柔らかい歯ごたえはエアコンで固くなったからだに伝わって、それを柔らかくしてくれる。最後にきつね。きつねは僕にとってきつねうどんの最後の楽しみです。食堂の照明が電球色のせいか、うすい黄金色に見えるのきつねは煮込みすぎず適度にふわふわ感を残しているので、箸ですっと割くことができる。それをそのまま口に運ぶと、口蓋と舌を寄せ合うだけで、きつねの甘味がじゅわっと広がる。もうこうなってくると全身の筋肉までほぐされてしまう。人は甘味に弱いようです。あとはもう箸の欲望のままに、だし、うどん、きつねを順不同に口に運ぶだけです。器の底が見えるまで約五分というところでしょうか。この五分間の癒しのために、真夏にきつねうどんを求めて僕はそそくさとその食堂に通うのです。

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