2021年8月20日金曜日

手触りのいい傘

 ある先生の講義の中で「人のなかには、(胸の前で両手でお椀の形を作りながら)ここにこころがない人がいる」という話をしているのを聞いて、それがずっと気になっていました。

先日、雨の日の朝に妻から手触りのいい丈夫な傘を渡されました。普段、僕はビニール傘しか使いませんが、その日はなぜか妻に言われたとおりにしました。それで雨の中をその手触りのいい傘をさして歩いていると、とても心地がいいのです。そのときその先生の話が思い出されて「あ、僕のこころ、今ここにある」。そう思いました。これまでの僕は、常に前へ前へ、と思って生きてきました。とはいっても、目に見えるような進歩が日常的にあるわけではありません。そのギャップがしんどくて、ものを買ったり、旅行に行ったり、お酒を飲んだり、刺激のあるものを食べたりしていました。

自分のこころがここにないと、現実とこころの場所が違うので、エネルギーを消費します。僕はそこに疲れてしまって、何か強い刺激や場所を変えるなどの強制力でもって、自分のこころをここにとどめようとしていたのだと思います。

いまここを生きる

最近、とてもよく言われている言葉です。素晴らしい言葉だと思っていたのに、実際の僕の行動は違っていました。何かを本当に習得したとき、人はそれを意識しなくなるそうです。手触りのいい傘のおかげで僕は、いまここを生きる、の入り口にはじめて立ったようです。それを意識しなくなったとき、自然に自分のこころをここに置いて生きることができるのだと思います。

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