2018年3月31日土曜日

ノーベル賞を目標にやってきたのではない

最近、2008年にノーベル物理学賞を受賞された益川敏英先生とiPS細胞の山中伸弥先生の対談の本を読みました。本自体は2011年に出版されたものなのでずいぶん前のものです。

その中で、益川がノーベル賞を受賞された時に、「たいしてうれしくない」、「我々は科学をやっているのであってノーベル賞を目標にやってきたのではない」という話が当時話題になり、その時の益川先生の気持ちが出てきます。なぜこのような発言を益川先生がされたのかという理由は2つあったそうです。1つ目は他の賞は「受けていただけますか?」と連絡が来るのに、ノーベル賞は「決まりました」と連絡が来るそうです。そこに益川先生はカチンときたそうです。2つ目は益川先生位は難しい問題と格闘している時はワクワクしてテンションが上がるけど、論文にして問題が整理されてくると、熱が冷めてきて、論文が完成した直後には興味の対象がもう別のものに移っているので、「なぜ自分はこんな小さなことに夢中になっていたのか」と自己嫌悪にさえ陥るそうです。この感情、すごいですよね。特にこの時受賞した根拠になった論文は1973年に発表した論文でした。つまり論文発表から30年以上前が過ぎて、受賞されたのです。そんな遠い過去の自分の実績を評価されてもなあというお気持ちだったのではないかと推測します。

人は過去の栄光があると、そこにすがりたくなることがあると思います。でも益川先生はまったく違う視点で、自分が興味のあることをただひたすら追求していくという姿勢でした。だからノーベル賞を受賞されたのでしょう。名誉や栄光ではない、科学者としての姿勢に感服したので、ブログに書いてみました。

2018年3月24日土曜日

自分ができていないことが一番のストレス

誰かに仕事を聞かれて、精神科医であるという話をすると、「人の話を聴くって大変でしょう、お医者さんの中で精神科が一番大変そう」という同情のお言葉をいただくことがあります。確かに精神科医の中には人の話を聴くのがしんどい、自分も鬱になるなんてことを言う人もいます。でも僕は人の話を聴くこと自体がしんどいとは思ったことはありません。その理由はうまく説明できませんが、何が一番しんどいかはわかっています。それは患者さんやご家族を前にして、自分がどうしていいのかわからない時、自分がいかにできていないかを感じる時です。つまりは自分の不甲斐なさほどストレスになるものはありません。それを少しでも減らすために勉強しているわけです。なんか愚痴みたいになってすみません(笑)

2018年3月17日土曜日

好き嫌いと良い悪いは違う

いろんな人を見ていると、人は何かをしゃべるときに、これは良い、これは悪いみたいに、その人の基準でものを言うと思います(僕も含めて)。でも物事の良い悪いの判断は立場や見方によって変わってしまうので、非常に難しい。よくよく話を聴いてみると、その人の好みで良い悪い(あるいは正しい間違っている)が決まってしまっていることが多いように思います。好き嫌いで言えばいいものを、良い悪いと言ってしまうから、そこからもめてしまうことが多い。好きとか嫌いと言えば、聞いてる側は「ああ、この人の好みなんだあ」くらいに思えるけど、それを良い悪いという基準で話をしてしまうと、話が倫理観くらいまで話が大きくなってしまって、聞いてる側が意見が違うときに反感を持つ可能性が高まります。できたら、良い悪いと言わずに、私はそれが好きです、嫌いですと言えば、もう少しみんなが仲よくできるのかなあなんて一人で考えました。

2018年3月10日土曜日

進んだ先がゴールになる

人は目標を決めないといけないとよく言われます。確かにそれは一面では正しいと思います。目標があったほうが方向性が見えるので頑張れる。でもその目標を決められなかったり、その目標に押しつぶされそうになる場合もあると思います。物事は常に両面で見れないといけない。これは常に師匠から言われる言葉です。

アナザースカイという番組の中でたまたまナレーターの方が口にされた言葉が僕の琴線に触れました。

ゴールに向かって進むのではなく、進んだ先がゴールになる。

いい言葉だなあって。いつも自分を鼓舞して、ゴールに向かって走ろうとすると疲れるときがあります。なので、この言葉に反対側からの見方を教えてもらえた気がしました。進んだ先がゴールになる。これもありだなあって。

2018年3月2日金曜日

負けとの向き合い方

将棋や囲碁の勝負という世界と治療という世界は酷似しているように僕は感じています。先日の情熱大陸はそれぞれタイトルの永世7冠の羽生善治さんと2回7冠を達成した井山裕太さんでした。その中で後輩の井山さんが先輩の羽生さんに質問していました。

井山さん
どうしても勝ちたい一局に負けた時にどういう心構えでやっていますか?

羽生さん
勝った時も同じだが、前の結果の残像をいかに残さないで次の対局を迎えられるかがすごく大事。勝っても負けてもすぐに忘れて次に向かう。負けた時のいいところは今ある課題が明確になる。そこを見つめて考え直すことがでいる。それから、これまでの中で1年中カド番を迎える時があった。そうするとカド番に慣れてくる。ピンチや大変な状況に慣れてくることも大事なこと。慣れてくると、必要以上に緊張することもなくなる。

井山さん負けた時に燃え尽きることはなかったですか?

羽生さん
それはむしろ何かを成し遂げた後の方が、気持ちを続けていくことの方が難しい。

これらの井山さんの質問とそれに対する羽生さんの回答は非常に含蓄のある言葉であると思いました。

僕は自分の治療がうまくいかなかった時に、どうしてもそれを引きずって次の患者さんの診察にも前のうまくいかなかった患者さんの治療のどこがまずかったのかという考えを引きずって頭の中でそれを検索していまう時があります。それは今の目の前の患者さんにも失礼だし、僕自身も精神的にきつくなります。羽生さんの言葉は僕には非常に深遠な言葉に聞こえました。うまくいかない治療に向き合わず見て見ぬ振りをするのは治療者として論外だと思いますが、それに引きずられ過ぎて、患者さんや自分に悪影響を与えるのは良くありません。いかに自分の課題に冷静に向き合い、そして次の対局(治療)に挑んでいくのか。その大切さを30年以上プロ棋士をされている羽生さんから教えていただいた気がしています。