その人の人生の大きな流れの中に治療という小さなことがある
悩みや苦しみを抱えて受診される患者さん。そして、その悩みや苦しみに対して自分なりの考えを持っておられる患者さん。さらにはその患者さんにもどうしようもない出来事が起こることもある。そういう患者さんの考えや出来事の流れが大きいと、治療でそれに抗うようなことはしないほうがいい、いや、してはいけないと考えています。一緒にその時期を耐えないといけない場合、その患者さんの強い考えを尊重しつつ少しずつ治療しないといけない場合もあります。医者はことさら教科書にある治療、自分の治療の経験や個人的な体験などから得た自分が最も良いとを思っていることを患者さんに提供することが使命であるかのように信じて治療することが多い。もちろん、これは倫理的に全く問題がない。しかし、なぜか治療がうまくいかないことがあります。それは実は医者自身の信じている最も良い治療は、患者さんにとっては最も良い治療でない可能性があるからだと考えています。それは見方によって患者さんへの治療の押し付けになり、患者さんとの関係が悪くなり、状態がもっと悪くなることはよくあります。かくいう僕もそのような治療をしてきましたし、今もしている可能性があります。その人の人生の大きな流れ、強い意志には決して抗わず、それにきちんと合わせながら治療という小さなことを続けて、結果として患者さんが今よりも楽になってくれることを願う。そんな小さなことを続けることが精神科医としての仕事なのではないかと思います。
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